第7章 バルテュスの言葉。

バルテュスの発言は晩年になってからものが多く残されている。これはローマのアカデミー・フランセーズの館長に就任した後に 画家として本格的に評価され 注目されたからであるが それ以前の発言が残されていないのはとても残念な事である。

*バルテュスは自ら何故 幼さの残る若い娘達を描くのかの質問に対して。
「彼女等の形が興味を引き それがまだ手つかずで より純粋だからです。」「彼女等は神聖で 厳かで 天使のような存在です。つまり美の象徴なのです。」
そしてそれらの官能性については「聖パウロは言っています。淫らさは見る者の目の中にある と。」

*「クールベもまたものの表象する事でなく ものと同一化する事を目標に絵画を描きました。」
 図。クールベ「鱒」

*「私は初源的な画家しか模写しなかった。」若い時に模写したピエロ・デルラ・フランチェスコなどに ついて。
図。ピエロ・デルラ・フランチェスコ「キリストの復活」

* 「セザンヌは自然の中に神的なものがある事を理解していました。自然の中に見つかる形態の木霊 目 と形態の間の律動 そしてこれらの対応。これが「私の目的はプッサンを手本にする事だ。」という 言葉で言いたかった事です。そして私もまたそれを探しています。全ての画家はそれを探していると 思います。ドラクロワも あの清の時代の画家 石濤にも同じ法則が見出せます。」
「中国の画家 石濤も素晴らしい絵画論を書き その中で普遍的な法則を述べています。」
 図。石濤「  」1642−1707 中国 清の時代初期の画家 禅僧。著作に「画語録」がある。  

*「一枚の絵の誕生を説明できない。画家自身にもそれは説明できない。絵画の言葉は自立した絵画独自の言葉であり 説明され 理解されるために他の言葉を必要としません。」

*「シュールリアリストの画家達を好んだ事は一度もありません。絵画のフロイト的解釈を好んだ事もありません。」 
「私はシュールリアリストだけでなく 何であろうとこの年代の前衛すべてを嫌っていました。」

*ジョルジュ・バタイユとジャコメッティとバルテュスの会話。 
バタイユ氏「君たちは目に見えるもの全てを破壊してしまう。」 
ジャコメッティ氏とバルテュス「我々はただ見えるものの下に存在するだけだ。そう見えていると思え る事物を把握するのさえ稀な事なのだから。」

*「ジャコメッティは 一つ一つの作品はそれ自体の空間 それ自体の重さ そしてそれ自体の沈黙さえ持つと主張しました。」

* F・フェリーニ氏との共通性について。 「二人とも日常の現実へ不可思議なものが介入する その半球の中で仕事をしている。」

*「バルテュスは現存するもっとも偉大な画家である。」と言われている事に対して。
「マチスとボナ−ルの会話を思い出します。
マチス「我々二人は我々の時代で最も偉大な画家ですよ。」
ボナ−ル(青ざめ そわそわして怒りながら)「今おっしゃった事は恐ろしい事ですよ。我々の時代で最も偉大な画家であるというのは恐ろしく悲しい事です。もしそうなら我々二人のどちらにとっても災難になるでしょう。」

*友人であったF・ベーコンの死去に関した報道で「彼は天才であった」と書かれていた事に対して。
「天才であるとはどういう意味でしょう? 彼は画家だった。本物の画家だった。それで充分ではありませんか?」

*芸術家と呼ばれる事に対して。
「私は芸術家という言葉は大嫌いです。漫画「タンタン」のアドック船長が使う最大級の侮辱語は「芸術家!」です。ピカソもこの言葉を毛嫌いしていました。「私は芸術家ではない 画家だ」と言ったものです。」
「私も画家であり より良く言えば職人です。つまり筆と絵具という絵画に特有な用具を使って仕事をする人間なのです。」
「 F・ベーコンは自らを芸術家と定義する事は虚栄の一形式だと言っています。私もその意見に両手を上げて賛成します。」
図。エルジュ「タンタンの冒険」

*「絵画に関心があるならドラクロワの「日記」は必読書でしょう。ドラクロワはそこで全てを語っている。例えば色の混ぜ方について あるいはものの本質を掴むために記憶だけで描く事の効用について。・・・」

*「時の流れの外にある存在を描きたい。」

*「プラトンの「永遠の哲理」に示されているように以前は東洋と西洋には親和性がありました。それは万物の存在の根源は神であるとされていたからです。」

*「中世の画家は神の声を伝える素朴な楽器であると考えていました。」

*「表現主義者 抽象表現主義者 ポップ・アーティストにはいかなる興味も持った事はありません。表現主義者は 私に言わせれば 絵画的価値であるもの全ての否定です。」

*「美の終焉は思考の終焉に等しい 美のあらゆる形態 いやむしろ美の概念そのものを破壊したのは20世紀の絵画です。」

*「私が描きたいのは反射する光にもまして もの自体が発する光です。」

*「「猫鏡 3」が仕上がる時 娘と鏡と猫の3つが融点に達するのです。」