*技法について

バルテュスの技法で最も代表的なものは 乾筆(ドライブラシ)による重ね塗りとバルテュス壁と呼ばれる画肌である。画肌とは画面に塗られた絵具の状態を言い 塗られた絵具の状態を表現方法の一つと見るのは 写実表現よりも具象表現になってからで多様な技法が考案されている。乾筆(ドライブラシ)による重ね塗りは 溶き油を少なめに溶いた絵具をかさつかせながら塗り その凸凹を利用しながら重ね塗りして作り出す。代表的な作品は「窓辺の薔薇の花束」などである。またバルテュス壁は バルテュスが考案してヴェラ・メジチ館の壁に施された技法なので このように呼ばれている。これは乾筆の重ね塗りと良く似ているが 塗られた絵具をガラス瓶などを擦り付けて作り出す。「読書をするカティア」などに用いられている。このような画肌はバルテュスの作品に欠かせない密度による重厚さを与えている。また他の技法では仕上げに薄く溶いた絵具を塗り重ねる お汁がけ(グラッシ)も使われている。これは「横顔のコレット」に見られる。これらの技法は全ての作品に使われている訳ではないので これらも絵画表現の可能性を追求した結果の一つで 表現技法の創造である。 
また描画の技巧として印象的な例を挙げると「カッサンドル=ムーロン一家」では 少年の持つ新聞を戸惑う事なく一気引いて描いている。これは丹念に仕上げる乾筆の重ね塗りとは正反対の即興性が必要だが 軽々とこなしている。また「鏡を持つ裸婦」の頭髪は 偶然の造形を巧みに利用している。これも丹念に塗り重ねる仕事ぶりとはひと味違い 抽象的な形態も充分に理解していた証と言える。

5_26_1

*素描について

本制作以外の作品に素描があるが これらは本制作の創案や下絵となるものがあり また本制作とは直接結びつかない単独のものなどがある。これらは主に外形線描法で描かれ そこに光と影の明暗を与えて立体感を出す方法が取られている。線描法では他に線を揃えて引くハッチング描法なども使われている。これらの素描のほとんどは鉛筆が使われているが その扱い方は実に繊細で丁重であり 穏やかな筆致と控えめな筆圧は濃く塗られる事は稀である。またペンによる速筆も残しているが これらの線は勢いよく引かれ 戸惑いがない。鉛筆の素描の丁重さと比べると別人のように達者に見える。
やはり素描に描かれているのは若い娘達が多く 様々な姿勢や部分を描いており それらは乱暴に扱うとその無垢さが失われてしまうかのように丁重に描かれている。それは根底に彼女等への愛おしさと慈しみがあるからだろう。これらは素描と呼ぶよりも創作を生むための培養液であり 感性の襞を潤す恵みでもあったであろう。
しかし中には数少ないが 性のそのものに一歩踏み込んだ素描もある。ここでは無垢な存在に潜む性の有り様を見つめているようだ。それは未成熟な肉体ゆえに放香は薄いが 性の原点への素直な関心を告白している。

5_26_2