以上がバルテュスの謎についてだったが 他にも注目すべき特徴がある。
それをここで追記として述べる。

*手の表現について。

人物を描くにあたって 手は顔の次に表情を持つものである。バルテュスはこれをどのように扱っているか確かめてみると いろいろな作品にその工夫を見る事ができる。「アンドレ・ドランの肖像」では 胸にあてられた左手の薬指だけがシャツの中に入っている。この細い指はドランの押しの強い態度とは別な 彼の繊細さを表している。また「ギターのレッスン」の太ももに置かれた手もわし掴みのようだが それだけでない豊かで微妙な表情を持っており 「トランプをする二人」では二人のトランプを持つ手は いかにも薄い紙片を持っている感じが巧で目にとまる。登場人物が多い「街路」では12本の手が描かれているが それぞれの表情に変化が与えられている。しかし同じく登場人物の多い「コメルス・サン・タンドレ小路」では手の表情はまったくと言ってよいほど与えられていない。これは手の表情で街の活気と沈鬱を描き分けているからである。さらに「画家とモデル」では娘の右腕の間から覗く 左手は小さく愛らしく 小指だけが真直ぐに伸びている。この小指にまで気を行き届かせる娘の感性は 細やかで早熟さをも感じさせる。
以上のような手と指などの細部への気遣いは 画家自身の神経の在り方を示しているが その全てを画家が指示したのではなく 描かれた人物の作り出した表情もあるだろう。つまり描かれた人物の神経の在り方も重要で 画家の感性に感応できる者でなければ このような細やかな豊かさは成立しないだろう。

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