* 12 なぜ時に簡素で 時に複雑に描くのか。

これは先の様式を固定しない作風によるが 青年期に描いた室内にいる人物などは 常に簡素化された室内や家具にされている。そしてシャシーの時代からは 複雑で入り組んだ構成と色彩を与える作品が目立つようになり その後はこれらを交互に用いるようになる。青年期のバルテュスは決して裕福ではなく パリの画室には余計な物などなかっただろう。しかしこの頃の簡素さは装飾に使える物を用意する事よりも 限られた条件の中で出来る事を工夫するといった制作姿勢から生じているように思える。これらの作品は 人物の姿勢と僅かな家具による巧みな構成が見られ その厳格さと工夫は一つの見所でもあり この簡素さは必要最低限で工夫をするという潔さから生まれているのではないか。だがその後には相反する複雑で重厚な作風を見せるが これはやはり新たな構成に挑もうとする制作意欲の現れだろう。さらにその後に簡素さと複雑さを交互に取り扱うのは構成の幅を極めた結果で 表現する内容によって使い分けていたからだと思われる。これらの簡素さの潔さは見る者の精神を高揚させ 複雑さによる重厚さは感情の重さと思考の奥深さを表している。

5_16_1

* 13 なぜ何時の時代か分からないように描いてあるのか。

写実表現や具象表現などは具体的なものを描いているので 描きようによってはその背景に流行や時代を読み取る事ができる。絵画には一過性の流行や一時期の時代を表す事を目的として描かれているものもあるし またそれらを遠ざけようとする傾向もある。バルテュスは後者で限定された流行や時代を遠ざけようとするが それは普遍的なものを求めるからであり ここにこそ表現するべき本質が含まれ これを知の集積として積み重ねられていくべきであると考えているからである。
ゆえに描かれた人物の衣装や髪形など 流行や時代を表しやすいものは扱われていない。しかも中には描かれた当時を表すと言うよりも 過去の時代を示そうとする作品がある。また現在と言う時間よりも 永遠性や彼岸と言った超越的な時間や世界を求め表している作品もある。またバルテュスは「私は中世の時代の人間です。」と言っているが これは懐古趣味ではなく 遠い過去とのつながりを強調しようとする意図である。これらには一つの時間に対する考えが根底にある。それは現在とは 今と言う短い時間で捉えるべきではなく 時の累積の表面に過ぎず 実感すべきは累積した時間の質量であると考えているのではないだろうか。つまりそう考えれば 過去にも自由に行き来でき 知の集積を顧みる事ができるのである。それゆえに過去の衣装を着た人物や永遠性を表す作品が描かれているのではないか。そしてその考えからすれば「歴史を知り 過去の優れた創造物と向き合い 引き継ぐべきものを受け取る事は重要であり そのためには何よりも時間の累積の質量を実感せねばならない。」となる。これこそバルテュスの作品を見る事で感じられるはずである。

5_16_2