*9 なぜ鏡を描くのか。

鏡も重要な画題であり これも大いなる発見であったはずだ。鏡は猫と同様に人々の身近にあり 現実を写し出す不思議な物の一つである。古くは神器の一つとされ 計り知れない現実の中で実体を持ったものしか写し出さないために 虚実を見極める道具として尊重された。またギリシャ神話では ナルキッソスが自らの姿を映しす水面も鏡であり 自己愛の象徴とされもいる。しかし鏡の写し出す世界は 左右反転したかりそめの現実でしかないが その写し出す力は正直過ぎるほど正確であり これは写実表現を追求する絵画表現からすれば現実を捉える上での師であり 目指す一つの頂点でもある。このように鏡も猫同様に多様で 不可思議な要素を持つ物である。バルテュスの鏡は常に若い娘と共にあり 彼女達に欠かせない付帯物として描かれている。これらの鏡は彼女達の姿を映す美の証人である。そしてそれゆえに美の共犯者であり 美の象徴ある。しかし彼女等を虚飾へと誘う道具でもある。このように鏡は少女と猫に次ぐ 第3番目の美に関係した物でありながら 不可思議な面を持つ怪しい物である。

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* 10 なぜトランプを描くのか。

トランプを題材にした作品には 一人占いと二人の勝負がある。このように何かをしている人物を描いた作品は 他に剣玉をする人 空中ゴマを操る娘 読書をする娘などがある。これらは一つの世界が成立している点で共通している。この中でトランプを扱う人達は やはり最も独自な画題ではないだろうか。一人占いは知り得ない事を超越的に知ろうとし 集中し没頭する。これによって他と隔離された一つの世界が成立する。またトランプの勝負では 駆け引きと勝負の行方による独特の緊張感を伴いながら 同じように没頭する事で一つの世界に入り 世界を成立させる。この世界は独自な空間であり 小宇宙とも言えるだろう。そしてこの世界は他と関係を持たずに成立している点で 同居の無関係に属しており この関係を持たない者達と同じように 関係性から独立した世界であると考えられる。つまり同居の無関係では 個々の人が他と関係を持たずにいるが このトランプを扱う人や人達は一つの世界を作り出す事で他と関係を持たないのである。しかしなぜ無関係性を画題に取り上げるのか。それは人々の実体を不均衡と捉えたように関係性よりも無関係性に実体を見たからかもしれない。そして関係性よりも独立した世界の成立に関心を持っていたからだろう。とするならこれらの作品は晩年の「鏡猫 3」の関係性によって成立する世界に通じる画題と言える。

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