352
P352「モロッコの思い出−馬上の自画像」 69×66㎝ S20号程度 キャンバスに油彩 1999
91才になって描いた 4枚目の自画像である。バルテュスは 1930年から 1931年の 15ヵ月の間 モロッコで兵役についていたが その頃の愛馬に乗った自画像で兵士の姿をしている。馬の名はラルピアと言い 青い空を背景にして黄土色の砂漠の上にバルテュスを乗せて立っている。この兵役期間はバルテュスにとって異国で過ごした青春の日々で それらを懐かしく思い出しながら描いたのだろう。またそれは国家のための兵役であるから 若かかりし頃の勇姿でもあるだろう。
この異国での思い出には「散歩中にお茶に誘われ 中庭の泉の涼しさとアラビアのお菓子を頂き 甘美な一時を過ごした。」また「馬に乗って散歩していた時 羊飼いが歌うのを聞いたが それはその場所を讃える歌で あまりに正確な描写であったので 強い感動を覚えた。」とも語っている。またこの黒馬はバルテュスが帰国した後 餌を食べなくなり 自分を死なせてしまったそうだ。この別離の悲しみもこの作品には込められているのだろう。青春の様々な出来事はその無垢な感受性によって捉えられ しだいに心の底に貯えられ やがてそこから芽吹いてくるものを人々は青春の思い出と呼ぶのだろう。バルテュスにとってモロッコ時代は青春の思い出と共に表現者としての土壌の形成にも深くかかわった時期なのだろう。