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P350(P349bis)「横たわるオダリスク」 225×232㎝ S150号程度 キャンバスに油彩 1998-1999
天蓋付きの寝台にマンドリンを手にした裸婦は横たわっている。オダリスクとはハーレムなどの宮廷の女官の事である。寝台は壁にそって置かれておらず 寝台の大きさとそこに横たわる娘の大きさを比べると身体が小さくて心細いようだ。娘は片腕を枕にして顔をそむけ もう一方の手でマンドリンの頭を持っている。片足は寝台の上にあるが もう一方の足は寝台からずれて指先を床につけている。楽器と裸体の組み合わせは 互いに感応する所があり 絵にもなる。楽器と裸体の曲線 奏でられた響きと表情 音と肌の色などの関係は官能的とも言える。娘の裸体とマンドリンは90才になったバルテュスが「鏡猫」以後の新たな展開を計る画題であり 手鏡の代わりに楽器を持たせている。娘はマンドリンをつま弾きながら寝入ってしまったのだろう。裸のままで。つま弾かれた弦の音は娘の寝息の中に溶け込んでいったようだ。それとも彼女の肌の上で消えていったのだろうか。

P351「真夏の夜の夢」 162×130㎝ F100号程度 キャンバスに油彩 1998-2000
先の 2点とこの作品は「モンテ・カルヴッェロの風景 2」の後に描かれ ほぼ同時期に描かれている。本作はニコラ・プッサンを讃える展覧会のために描かれた作品である。ニコラ・プッサンはフランス出身で 1600年代のバロック時代にローマで活躍した代表的な画家であり 演劇的で人物の心理を巧みに描き出す作風を得意とした。バルテュスはプッサンの作品を敬愛していて「決してさめる事のない初恋」とまで言っている。
赤黒い岩場のような場所に裸体は横たわり マンドリンを持っている。娘の顔は上向きで表情は分からないが 頭に花の冠をつけ 腕には白い布を巻き 足を大きく組んでいる。裸体の形は不安定だが 肌色は温かく輝いている。その大胆でおおらかな姿勢と「真夏の夜の夢」という題名は 情熱的で幻想性をおびた濃密な官能性を思い起こさせる。シェークスピアの作品にも同じ題名の作品があり 妖精の魔法によって恋の行き違いが起こる物語である。プッサンの演劇性とシェークスピアの恋の駆け引きの巧みさを結び付けて描いたと思われる。

*「横たわるオダリクス」はガリマール社のレゾネでは P349 bisとされているが 本書では P350とし「真夏の夜の夢」は P351とている。