335

「造形の魅力は均衡と不均衡の狭間に置かれる」

P335「休息する裸婦」 200×150㎝ F130号程度 キャンバスに油彩 1977
この作品が描かれた 1977年はローマ滞在の最後の年であり 1961年から約16年間も続いたローマ滞在期の最後の作品でもある。先の「横顔の裸婦」と比べると姿勢への関心が戻っており 絵の見せ場はこの形にある。椅子に座る若い娘の裸体はゆったりとしたS字を作り 両手は左右に広げられ 顔は極端に横に向けられている。そして片足は力を抜いて伸ばされ もう片足は折り曲げられている。この両腕の左右対称と身体が作る S 字型の曲線 そして左右非対称の両足。これらは造形的な魅力に溢れていて見飽きる事がない。裸体は光と影によって立体感を与えているが その明と暗の均衡も変化に富んでいる。またその明と暗によって描き出された裸体の丸みも魅力的であ。背もたれの丸い椅子は P333の「本を読むカティア」で描かれたものと同じであるが 右端の肘掛けはやや右に広げられて右側の手と上手く関連づけられている。全体の配置は裸婦と椅子がやや左上にあるので 伸ばされた足の下は空いている。左下には足乗せ台のようなものが描きかけのまま残され 右側の壁には扉のようなものが描かれているが やはり椅子と裸婦の配置が上にあり過ぎるようだ。それはもっと描き足すためであったのだろうが 裸婦と椅子のみの完成に終ってしまったのだろう。それでも裸婦と椅子の造形的な魅力は充分で 特に裸体の明暗による非対称な立体感とその造形は抽象的でもある。この裸体には造形的な魅力と同時に 若い肉体の持つ柔らかで張りのある肌と その暖かみも感じられる。つまり造形的な魅力と生身の肉体が醸し出す官能性が共存している。しかしこの造形の写実性には手が加えられており 僅かに不均衡である。それは横向きの顔 乳房の位置 両手の長さなどであるが それらは一種の味付けになっている。バルテュスの場合 この作品でもそうだが 造形の完全な均衡を崩す事で生じる不均衡は美と醜の狭間にあるようで 一種の危うさが感じられるが それはここでも魅力となっている。