333

「絵画へと昇華された性の露呈。」

P333。「本を読むカティア」 179×211㎝ F150号程度 キャンバスにカゼインテンペラ 1968-1976
片膝を立てて椅子に座る若い娘の姿は P112の「夢見るテレーズ」を思い起こさせる。しかしここにはあのような顔をそむけて眼をつぶり 性を露呈させ その横で猫のミルクを飲む音が聞こえるというようなあからさまはない。姿勢は同じでも横向きにされ 本を読む姿に変更されている。また人物と椅子以外は壁と床だけで 猫もいない。しかし片膝を立て陽光に晒されている事にはかわりがない。また本を読んでいるようだが 光の方向からすれば文字面は影になり 影の中にある顔と横目使いは意味ありげである。
だが全体には落着きと熟成が見られる。これは姿勢を横向きに変えた事と画肌と色彩のもたらす充実感によるものだろう。そしてこの作品は 挑発的な性の露呈や日常の純粋性を描いた作品の集大成であり 融合だろうか。また先に描かれた日本の古典絵画の様式の特徴である奥行を与えずに 人物を横向きに描く手法はから見て 異国の様式の昇華でもあるはずだ。つまり日常の純粋性の中に 微かな官能性を残しつつ 新たな様式を取り入れる事で 性の露呈よりも一回り大きな世界を展開して得たと言える。
人物の後に広がる壁面はあのバルテュス壁で この重厚な渋い輝きはやはり見応えがある。また出入り口を塗りつぶした跡のような左側の壁と そこから突き出た壁の一部は どこか謎めいているように見る事もできる。それによって壁全体に変化を持たせながら 右側のカティアと釣り合っている。そして人物と椅子は 適度な具象化がなされており 人物の簡略された立体感による丸みや平面化 椅子の背もたれの切れのある曲線と裾の襞のまとめ方の巧みさ そしてスカートと白い布の皺は粗と密の関係にある。床も壁のように簡素だが潔く 床の上にあるもの全てを充分に支えられるように 茶系統の色彩に赤色が加えられている。これらは充分な重ね塗りで描かれており 背景のバルテュス壁と相性がよく 画面全体を充実した画肌の統一感で満たされている。重厚にして簡潔 画肌と色彩の輝き 日常の純粋性と存在感 そして官能性 また具象表現としての形 これらがもたらす充実感こそが 氏の熟成である。
この熟成には 娘の姿勢と光の方向による微かな官能の芳醇さが放つ香りが残っているが そこにはカティアの横目使いの堅い表情が香辛料として混濁している。これによって放香はより複雑な芳醇になっている。そしてこの香りは陽光と供に 画肌と色彩による画面全体に染み渡っているようだ。