300
P300。「アラン・ド・ロチルド男爵夫人の肖像」 190×152㎝ F120号程度 キャンバスに油彩 1958
久しぶりの肖像画である。シャスイに転居してから初めて描く肖像画であるが この後には肖像画を描く機会がなかったのでこれが最後の肖像画である。
この肖像画はシャシー時代では大きい方の画面であるが 人物はわりと小さく描かれていて 他は室内の様子を描く事に当てられている。椅子に座った男爵夫人は頬杖をつき こちらを見ている。ハート形の髪形が特徴的で 傾いた頭部から背にかけて円の一部のような曲線になっている。裾の長い厚手のガウンを着た夫人は穏やかで気品を持っているが それはこの室内の様子に似合っている。椅子の形 布が掛けられたテーブルとその上の器 小さな円卓と燭台(この白いロウソクは2本とも斜めに傾いている) 暖炉と衝立て その上の彫像と金色の調度品 その下の壁にある金色の紋様など。これらは特に豪華ではないが 屋敷の品格を感じさせている。パリ時代に描かれた肖像画の人物達は貧しいと言ってもよいくらいの室内の中に置かれていたが この人物の扱いは異なる。由緒があり 富裕層であろうこの夫人を描くにはこの部屋の様子も描く必要があると判断したのだろう。パリ時代の肖像画は人物そのものを描こうとして装飾性を故意に排除していたように思われるが ここでは人物と室内の様子を描く事で その人物自体の表現になると考えたのだろう。この由緒があり一つの品格を持った屋敷の中で 彼女は女主人として居る。このような人と屋敷の関係は互いに一体化し 切り離せないものになっていくのではないだろうか。人は屋敷に宿り 屋敷は人に宿る。由緒ある屋敷とはそのようなものを生じさせる力を持つのだろう。この絵はそのような両者の関係を思い起こさせる所がある。
またバルテュスが具象表現を取り入れてからの本格的な肖像画としてみると パリ時代とは異なる工夫も見られる。それは具象表現としての簡略化された立体感 質感 光と影などであるが やはり具象表現としての形の作り方の工夫が見所となる。ここでも人物の有機的な形と室内の人工物の形の関係を構成しているが 形の面白さとしては家具などの形も見逃せないだろう。