121-122
P121。「長椅子の上のテレ−ズ」 71×91.5㎝ F30号 キャンバスに油彩 1939
B氏は良く「ポーズの画家」と呼ばれるが 身体の作り出す形態に関するこだわりは強く 様々な姿態を求めたが その結果幾つかの定番に落ち着く。P112 の「夢見るテレ−ズ」の姿勢は一つの完璧さを持ち 片膝を立てるポーズはB氏の一つの定番である。この「夢見るテレーズ」と同じ長椅子の上でポーズを取るテレーズにも 人体の作り出す姿勢の可能性を求めているようだ。絵画にとって人物がどのような姿勢や身振りを見せるかは重要な問題であり これまでも様々なポーズが描かれてきた。動勢感の強いポーズ 寡黙なポーズ 官能的なポーズ 歪んだポーズ 自然なポーズ 非自然なポーズなど。しかし具象表現(デフォルメ表現)の台頭に伴って人体が作り出す姿勢への追求は現実の人体から離れていく。この作品でB氏が成立させたこの姿勢は現実の人体が作りだせる姿勢であり その均衡と構成は見応えがある。片手を高く上げて糸のようなものを垂らし もう片方の腕を床につけてその上体を支えている。頭は下がりぎみで物憂げに下がっている糸を見ているが 片膝を立てているのでスカートはずれて両足の付け根まで露になっている。まるで長椅子の上で舞っているようだ。しかし言い付けられた姿勢を取りながら 退屈を紛らわしているようでもある。この姿勢は確かに構成的で均衡を持っているから 人体が作り出す美の一つだろう。しかしこれは構成のために作られた姿勢である。身体の使い方が大きいわりに衣服は日常のものだから動きに合わせて肌は露出し そこに官能性が生まれる。ここには人体による構成の追求に衣服の乱れから生じる官能性が味付けされている。描き方としては形のまとめ方が的確で 写実表現を適度に要約しているおかげで見やすく 身体のシワなどが作る抽象性の取り入れ方も上手い。
しかしこれ以後はこのような現実的で完全な均衡を持つ姿勢は描かれなくなる。そのかわりに非自然的な変形が加えられた人体を描くようになっていく。それは現実の制約内で作りえる姿勢に物足りなくなったからかも知れない。

P122。「ある室内の3人の人物」 F15号程度 1939
この作品は小さく本制作のための試し描きのようだが習作とはされていない。
室内には3人の人物が描かれていて 1人は窓辺に立つ男性 もう1人は左端の椅子に座っている描きかけの人物 そして中央下の「長椅子の上のテレーズ」と同じ姿勢の人物。つまりこの作品は「長椅子の上のテレーズ」を室内画に使うための創案である。「長椅子の上のテレーズ」のポーズを室内画に生かそうと考えたのだろう。しかし室内画はそれぞれが組み合わさる事で一つの世界を作りだすが 「長椅子の上のテレーズ」の姿勢はそれ自体で完結していて 他との関係を持ちえなかった。それゆえにこの創案は本制作に至らなかったと考えられる。