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P116。「ベルンの帽子」 91.7×72.7㎝ F30 キャンバスに油彩 1939
P103の「白いスカート」に次ぐアントワネット夫人の登場である。初めて見るとちょっとびっくりするくらい大胆な黄色の帽子である。黄色はやや濃いめで形は平たくて少し反っている。その上には赤と白と緑色の小さな花飾りが付いているが 小さいのであまり気にならない。しかし随分と派手な色の帽子である。若い頃の氏がこのような彩度と明度の高い色を使う事は珍しい。ベルンはスイスの古都で二人が結婚した街であり 転居先の一つでもあった。そしてベルンの伝統的なこの帽子を描いたのは この作品が初めてではなくP45の「ベルンの帽子がある静物」などがある。しかしそれにしても派手な色だ。お祭りでもあったのだろうか。それにしては派手な帽子をかぶった夫人の表情がさえない。眼は半開きで輝きがなく 口元にも表情がない。身体はやや後ろに傾き 両腕にも力なく 手や指にも表情はない。衣服は黄色を目立たせるためか正反対の黒色で 装飾もない。テーブルの上にも何も置かれていない。つまり帽子以外は全て簡素で無装飾になっている。全てがこの帽子の色を引き立てているようだ。
ひょっとしてこの絵は・・・。氏とアントワネット夫人の会話が聞こえてきそうだ。
アントワネット夫人「まったくもって迷惑よ こんな派手な帽子かぶらされちゃって」
氏は「いいじゃないか せっかく珍しいものが手に入ったんだし ちょっと動かないで。」
遊び心。遊びなのに当人達は遊んでいない。ように見える。それは当人達が楽しんでしまっては 絵を見る人が楽しめないからだろう。こんな寛いだ可笑しみを隠した作品があっても良いではないかな。
晩年になって世間に様々な形で その姿を見せた氏は威厳ある人物としての印象を定着させた。しかし 機知に富み 可笑しみを理解し 自ら道化てみせる柔軟さも持ち合わせていた人物でもあった。日本映画の「座頭市」のファンで俳優の勝 新太郎との交友もあったが 家族の前で座頭市の真似をして見せて 大いに笑わせたとの話もある。