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P90。「ノアイユ子爵夫人の肖像」 158×135 F100号程度 キャンバスに油彩 1936
この絵は約F100号の大きさである。肖像画が徐々に大きな画面になっていく。それでも簡素な室内と家具は変わらないが 氏特有の妙味は新たな工夫とともに味わう事ができる。この肖像画でも画面構成と人物の扱い方に新たな工夫が見られ 光と影の効果も加わえられている。そして画面全体はじっくりと仕上げられ 充実度を増している。ここではもう肖像画を越えて「美しき日々」に通じるような気配が生じているようだ。しかし「美しき日々」を描くのはまだ10年も先である。この絵はP86の「女の肖像 (マダム・イライレ)」よりも簡素で 衣装の華やかさやマホガニーの戸棚はなく 安価な机と椅子 壁の凹凸と縁回し そして僅かに見える暖炉?。これらは直線的で水平線と垂直線が面と共に画面を構成している。その中で斜めに置かれた机が斜線を作り 変化を与えているが やはり直線的である。つまりこの絵は直線と面の構成で出来ていて それに合わせるように人物はの姿勢も作られているようだ。人物も斜線を作り 椅子は人物の曲線にあわせるかのように僅かに曲線が与えられている。実に構成的な画面作りだが 右上からの光は室内に微妙な陰影をもたらし 人物の顔には顔を二分するような明暗を作り出している。この光が作り出す室内の陰影は夫人の落ち着いた態度と陰鬱な表情とともに 描かれた時から過去であるかように現在から遠のいて見える。その事に唯一逆らっているのが夫人の胸元から覗いている赤色だろうか。ノアイユ子爵夫人は夫ともに活発な芸術の援助者であった。