88

「悲しみと可笑しみ」

P88。「ポントワ−ズの郡長 (ムシュ・イレーヌ)」 108×125㎝ F60号程度 キャンバスに油彩 1936
この作品は屋外に描かれた肖像画の3点の内の2枚目である。郡長とはポントワ−ズ地方を県として そこに派遣された官僚である。その役職を示すかのようにズボンに飾りぶちがついている。そして先のP86「女の肖像」に描かれた婦人の夫であるイライレ氏である。この肖像画の題名は2種類あって もう一つは「Le sous prefet de Pontoise」であり 違いはsousがある事で スーと発音し 意味は ~の下に つまり「ポントワ−ズの郡長の下に」となる。そうなるとこの絵で重要なのは左下の犬で この犬が面白い。飼い主の郡長はさりげなく澄ましているのに その飼い犬はいじけたような顔をしてうなだれている。フランスでは飼い犬は必需で主人と一体である。要職についている者か その立場に似合う犬を飼う事は当然なのだが この郡長の愛犬は貧相でいじけている。しかしきっと郡長はこう言うだろう。「こいつとは腐れ縁でね。こう見えてもトリュフを探させたらここいらで一番だ。しかし意地汚く 眼を離すと自分で喰ってしまう。」
それにもう一つ。郡長の背後は林で低い石塀が建ち その奥には生け垣もある。樹木の奥には小さな家や塀も見えるから広そうだ。彼の所有地だろう。郡長自身も品があり 地方の知識人でもあるはずなのに 彼は安物に見える白ペンキの塗られた細い鉄の椅子に座っている。この椅子も彼の愛犬のようだ。なにやらどうも郡長の地位を示す華やかなものがない。塀の上の石の花瓶も小さく豪華には見えない。そういう趣味の人なのかもしれないが そのように描いたのかもしれない。この頃の氏は簡素なモノを好んでいたし ちょっと意地悪な所もあるから わざと豪華さや華やかさ 権力を示すものを省いたのかもしれない。ここにも愛犬の可笑しみと郡長の気品 そして両者に共通な憂いがあるように見える。