82
P82。「レリア・カエターニ(公園の中の若い娘)」 116×88㎝ F50号程度 キャンバスに油彩 1935
この赤と緑が印象的な肖像画は 珍しく屋外を背景に描かれている。屋外の肖像画は3点しかない。人物は右向きで腕を軽く組んで頭をやや傾けている。公園の歩道に立った足下には鳩 右奥に椅子が2脚 一脚は倒れ 左奥には街灯と森 さらに奥には建物の屋根が見えている。右奥は緑の芝が広がり 曲がった歩道に帽子をかぶった少女が片手をあげて後ろ向きに立っている。その奥は公園の森 木々は葉を落とし繊細な枝先が見えている。この絵は未完成らしく腰のあたりに身体の線を描き直すため白い線が残っている。しかし不思議なのは人物と街灯 建物 椅子などの大きさの関係である。街灯は人物に比べ小さすぎるし 人物の足下と街灯の根元の高さの差はせますぎて距離感がない。椅子も同じ。それに比べ奥の少女は充分な距離を出すために高い位置に描かれている。この大きさと距離の関係の食い違いは意図的なのだろう。先の「カッサンドル=ム−ロン一家」や「キャシーの化粧」のような工夫をする画家なのだから。モノの大きさと距離はモノ同士の大きさの違いと画面の高低の位置で理解される。これは写実表現描法の原則である。しかし現実を見るように絵画世界を造ろうとしなければ そのような原則は守る必要はない。子供が描く絵では関心を強く持つモノほど画面中央に大きく描き 人と家などの大きさの比較は重要ではなく描き分けられる事は少ない。バルテュスは西洋や東洋の古典絵画から多くを学んでいるが ここでは子供の絵画表現の法則を利用するかのように人物の大きさを優先させて 物の大きさや距離を変えさらに人物を中心にした画面構成のためにそれを行なっているようだ。その結果 このような既存の法則に従っていない不思議な絵画空間を作り出したと考えられる。

P83。「レリア・カエターニの肖像」1935 資料写真無し 現存不明。

図。A-3絵画における大きさと距離の原則。有角透視図法では同じ物でも近くは大きく 奥まるほど小さくなり 高い位置になる。
図。P82「レリア・カエターニの肖像」不自然と思える箇所。人物と街灯の大きさと距離。椅子と人物の大きさと距離。