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P26。「共有財産の分配とアナニアの死」の摸写。59.5×54cm 厚紙に油彩 1926
この絵の原作はマザッチオの描いた「聖ペテロの生涯」の一場面であり 人々がそれぞれ個別に所有していた財産を売って その代金を差し出し 聖ペテロによって共有財産として再分配してもらうのだが アナニアと言う男は代金の一部を誤魔化して差し出した。それを見抜いた聖ペテロは「神に対する虚偽の振るまいである」と言う。その言葉を聞いたアナニアはその場に倒れて息絶えてしまう。中央右の黄色い衣を身につけた人物が聖ペテロであり その左横に立つ子供を抱えた女はアナニアの妻サッピラで 足元にはアナニアが横たわっている。
この原作に描かれた人物達も互いに重なるほど近くに立っているが 視線は重ならず個々に存在しているようだ。また妻サッピアの表情は無表情だが 頑さが見られる。これは真剣な無言劇であり これらもバルテュスの作品の特徴と一致している。バルテュスはこれらの古典絵画から多くを学んだろうが 学ぶだけでなく 画家として自立するための大いなる拠り所としたのではないだろうか。つまりこれらの作品は画家として足元に埋めた基石であるように思われる。

マザッチオ=1401−1428 初期イタリア・ルネッサンス フィレンツェ派の画家だが 27才と言う若さで夭折している。ピエロよりも14年から20年ほど早く生まれているがほぼ同時代である。ジオットやドナテロからも学んだ現実的な人物表現と初源的な立体感や空間表現は それまでのゴシック絵画では見られなかった写実性があり ピエロなどと共に写実表現の発展の基礎を築いた。他に「楽園追放」や「貢の銭」などがある。
「聖ペテロの生涯」はフィレンツェのサンタ・マリア・デル・カルミネ聖堂の右翼廊にあるブランカッチ礼拝堂の壁面に描かれたフレスコ画。